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● つるぎの舞 --- 其の七 ●

 部活が終わり、かえでは竜太たちが待つ校門に向かって走っていた。早くみんなに言いたい。もう心配はいらないと。
「竜太! 北条くん! 東堂先輩! お待たせしました!」
 息せき切って走ってきたかえでに、その場にいた三人は目を丸くした。
「どうしたんだかえで、そんなに嬉しそうにして」
 竜太は、息切れで話ができないかえでを見て話しかけた。
「どうも……こうもないわ。早くみんなに報告したくて」
「報告?」
 三人は同時にかえでに聞く。かえでは息を整え、満面の笑みと共に、自らの右手の指をVの字にして三人の前に突き出した。
「西園寺かえでは、本日、やっと面打ちが打てました! 本当に皆さんご心配をおかけしました!」
「本当か!」
「かえではん、ほんま良かった」
「西園寺さん、おめでとう」
 三人は驚愕と共に、かえでに笑みで返す。
「そうなの、すごい先輩がきて頂いて、親身になってくれて、本当に面打ちできるようにしていただいたの」
 両手をオーバーリアクション気味に振り、説明するかえで。
「先輩って?」
 竜太がかえでに質問する。するとかえでは、待ってましたとばかりに答えた。
「なぎなた部のOGで、全国大会にも行かれた、すごい大先輩なの。つるぎ先輩て言うんだけど。……あれ? お名前は何だったけ?」
「西園寺さん、あなた私の名前を知らずにいたの?」
 かえでの後ろからいきなり声が聞こえたので、かえでと他の三人は一斉に声のする方に振り向いた。果たしてそこにはなぎなたと防具をもつつるぎの姿があった。
「先輩、すみません。先輩をご紹介されていたとき、私は考え事をしていたからですね。先輩、もう一度お名前をお聞きしても――え?」
 かえでは素直につるぎに謝り、名前を聞こうとした時、その場にいた、しのぶと並ぶつるぎを見て思わず声を上げた。
「東堂先輩……」
「はい」
「はい」
「え?」
 かえでは思わずしのぶの苗字をつぶやいた、するとしのぶとつるぎの二人共返事をした。
「東堂――先輩?」
「はい」
「はい」
 やっぱり二人とも返事をする。
「えー!」
 かえでは訳が解らなくなった。そんなかえでを見て、しのぶが説明をした。
「西園寺さん。この人は『東堂つむぎ』私の姉なの」
「え?」
 かえでは言葉が出ない。すると今日の部活が始まってつるぎが目の前に現れた時に感じた『凛とした鋭いまなざし、綺麗な歩き方、あふれ出るオーラ、しなやかな黒髪、強い雰囲気の中に、何か優しくて、いつも見守ってくれていて、とても心地良い感じ』の答えが見つかった。横に並び立つ、しのぶと同じだったのだ。
「先輩、すみません、しっかりお名前を聞いていなくて」
 かえでは顔から火が出そうなくらい真っ赤になりながら答えた。しかしつるぎは首を軽く振り、
「いいのよ、西園寺さん。結果的に名前を知らなくて正解だったわ。知っていると、西園寺さんの力になれなかったかも知れないから」
 つるぎに優しく言われても赤ら顔が治らないかえでの姿がそこにあった。
「つるぎ先輩、何でつるぎなのですか?」
 落ち着いたところで、かえではつるぎに聞く。
「ふふ、西園寺さん『つむぎ』って変な名前でしょ」
「いえ、そんな事はないです!」
「私は、弱々しく聞こえる名前がいやだったの。それでこの高校に入ってからどうしても尖りたくて、顧問の先生に相談したら、剣のように鋭くなれと言う意味を込めて『つるぎ』とつけていただいたの。おかげで強くなれたわ」
 かえでは、つるぎの名前の由来を聞いて、心から納得した。
「西園寺さん、心の在り方次第で人間はいくらでも強くなれるのよ。だからあなたもがんばってね。もう大丈夫だと思うけど」
「はい、つるぎ先輩!」
 つるぎの言葉を聞いて、大きく元気良く返事をするかえでの姿があった。

 それからしばらくして、なぎなたの県大会が行われた。そこでかえでは、決勝戦でまたも新人戦と同じ相手となり、見事に面打ちを繰り出しついに初優勝を勝ち取った。
 つるぎの元に満面の笑みを浮かべ、優勝旗を持つかえでの写真が送られていた。
「西園寺さん、やったわね。本当におめでとう」
 そう言ってつるぎは目を細め、後輩の勝利を心から喜んだ。

(おしまい)
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